LLMは万能じゃない!多言語開発を成功に導くための「5つの壁」の乗り越え方

2025年10月8日、DForD Softwareによる投稿


大規模言語モデル(LLM)が、多言語ソフトウェア開発の世界に革命を起こそうとしている。そんな期待に胸を膨らませている方も多いでしょう。しかし、LLMは「魔法の杖」ではありません。その能力を最大限に引き出し、高品質で、文化的に配慮された翻訳を実現するためには、私たちが乗り越えるべきいくつかの「壁」が存在します。この記事では、LLMを導入する前に知っておきたい、リアルな課題とその対策を、開発者の視点から率直に解説します。

壁その1:文脈(コンテキスト)が伝わらない

自動翻訳で最も頭を悩ませるのが、この「文脈」の問題です。同じ「Home」という単語でも、UIのボタンなら「ホームページへ」かもしれませんし、ユーザー情報の画面なら「自宅住所」を指すかもしれません。AIは、この文脈を読み取ることが苦手です。文脈がなければ、AIは間違った翻訳を選んでしまうでしょう。だからこそ、翻訳対象の文字列にスクリーンショットや開発者向けのメモを添えて、「この言葉がどこで、どう使われるか」を伝えられるツールが、何よりも重要になるのです。

壁その2:動的なテキスト(変数)でつまずく

ソフトウェアのテキストは、静的なものばかりではありません。「%sさん、こんにちは」のように、プログラム実行時に名前などの動的なデータが挿入される「変数(プレースホルダー)」が頻繁に使われます。LLMは、この変数を誤って翻訳してしまったり、変数の前後の文法を正しく組み立てられなかったりすることがあります。これを防ぐには、翻訳プロセスに入る前に「この部分は翻訳しないで」とAIに指示する、賢い前処理の仕組みが不可欠です。

「LLM翻訳の成否は、AIにどれだけ『文脈』を伝え、ソフトウェア特有の『複雑さ』を理解させられるかにかかっている。」

壁その3:品質と表現が安定しない

LLMの性能は日々向上していますが、それでも時として、文法的に不自然だったり、ぎこちない表現の翻訳を生成してしまうことがあります。さらに、「お気に入り」という言葉が、アプリのある画面では「Favorites」と訳され、別の画面では「My Likes」と訳されるなど、表現の「一貫性」が保たれないケースも。ここで活躍するのが、やはり「人間の目」です。AIが生成した翻訳を、ネイティブスピーカーが素早くチェックし、修正できる。そんなレビュー体制をワークフローに組み込むことが、品質を担保する最後の砦となります。

壁その4:文化の「壁」は翻訳だけでは越えられない

真のローカリゼーションは、単なる言葉の置き換えではありません。日付や時刻のフォーマット、色の持つ意味、使われる画像など、その国の文化に合わせてソフトウェア全体を「適応」させるプロセスです。残念ながら、現在のLLMは、こうした文化的なニュアンスまで汲み取って、すべてを自動で調整してくれるわけではありません。ターゲット市場のユーザーに違和感なく受け入れられるためには、最終的に人間の専門家による文化的なチェックが、依然として重要な役割を担います。

壁その5:データのプライバシーは大丈夫?

クラウドベースのLLMサービスを利用するということは、自社のソフトウェアに含まれるテキストデータを、外部のサーバーに送信するということです。もし、そのテキストに未公開の新機能に関する情報や、顧客の個人情報などが含まれていたら?これは、データプライバシーやセキュリティの観点から、無視できない懸念点を引き起こします。信頼できるプライバシーポリシーを掲げたサービスを選ぶことはもちろん、特に機密性の高いプロジェクトでは、自社環境(オンプレミス)やプライベートクラウドで運用できるソリューションを検討することも重要です。


これらの「壁」をあらかじめ理解し、賢く対策を打つこと。それこそが、LLMの驚異的なパワーを、自社の多言語化ワークフローの「真の味方」にするための鍵です。AIのスピードとスケール能力に、人間の持つ細やかな配慮と専門知識を組み合わせる。このハイブリッドなアプローチこそが、これからのグローバルなソフトウェア開発を成功に導く、最も賢明な戦略と言えるでしょう。

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